外断熱の注文住宅を建てる建築会社2代目の頭の中

住み心地とか、住む人の健康とか、家族の安心安全とか、大きな資産とか、喜び感謝クレームとか、様々に満ちている業界で色々と考えています。地域のため、日本のため、世界のため、御施主様のため、社員さん職方さん業者さん大工さんのため、自分だけにしかできない事がどんどん増えていく毎日は刺激的です。

国の住宅政策を読み解く[中編]ストック循環社会

本業のほうで「ストック住宅」構想というものを掲げていまして、今回触れている「住宅ストック循環支援事業」は名前が被ってしまっています。

どっちが先というものではないのですが、名称をパクっているわけではないので紛らわしいですがご了承下さい。

 

大上段から建設業界をまとめてみる、という難題にチャレンジしております。

 

アレコレと工務店の進む道を考えるために、これまでと今を考えてみました。
一度頭の中を整理するためにもアウトプットしてみます。
前回は建設業界でも、特に土木分野の公共事業についてでした。
建築と土木は非常に似通っていながら(所管省庁は国土交通省)、中の人の気質はかなり異なります。
 
よく、建築は個人主義で芸術家肌、土木は体育会系でチーム主義なんて、ざっくり分けられたりしたものです。
ちなみに在学時の男女比は、建築が女性3割に対して、土木は女性1割を切っていました。な、なぜだ!?
 
最近は「リケジョ」ならぬ「ドボジョ」も増えてきているそうですね。
 
※ちなみに、女性比率ワーストは機械科「メカジョ」と情報科が常にトップ争いを繰り広げ、やや下がって土木科や物理科、数学科などが3位決定戦をしていました。
マジ、理系大学女子いない。
 
 
 
 

日本の抱える問題と課題の中の住宅産業

日本は世界的にもかなりの先進国かつ円熟した国へと成長し、新たな課題を数多く抱えています。これらの問題と課題はことごとく密接に絡み合っていて、対処するには社会が完成され過ぎており、素人目にはどれから手を付けていいのか分からないくらいに複雑です。
 
それでも根本を集約すると大きく3つに分けられます。
 
 
  1. 人口減少に伴う経済活動の縮小
  2. エネルギー資源枯渇・地球環境への対応
  3. より高度に発展を続ける生活水準
 
急募!一発逆転の解決策
 
この3つだけでも相反し合っているので、解決を放棄したくなるほど無理ゲーです。
 
人口を増やすためには手当を充実させ、若者を子育てに誘導しなければなりませんが、若手世代は生産活動の担い手ですから、経済への悪影響が懸念されます。生活水準を支えるにも生産世代の労力が必要ですし、移民を受け入れれば良いというものでもありません。
 
社会全体の仕組みを変えていかなければとか、昔は良かったとか、最近の若者は、団塊の世代が、とか言っても何も解決をしませんし、手を打たなければゆるゆると衰退し始め、ある時一気に凋落へ向かいます。
 
これを回避し豊かな生活を維持向上させるために、国は様々な手を打っているのですが、前述の通り複雑すぎてわかりにくいのが難点です。
 
住宅は豊かな暮らしを送るフレームであり、生活の基盤です。工務店を営み、住宅建設業に携わる私たちは、どのような立ち位置でどのように社会に貢献していけば良いのか。
 
そこをしっかりと考えることで、次の一手を探ることができると考えました。
 
2015年、2016年と戸建ての注文住宅数は、周辺の仲間たちも激減しています。このまま手をこまねいているとジリジリと衰退していってしまう危機感があります。
 
実は、土木建設系の公共事業がやりにくくなった国は、住宅政策を改めて見直しています。
 
地域の工務店、建築会社、大工さん、職人さんに上手に仕事が回るように民間を活気づければ、大型工事を上回る経済の循環を作り出すことができるのです。
 
では、そのからくりはどういったことでしょう。
(こんな事書いちゃっていいのかな~?)
 
 
 

住宅業界の場合

さて公共事業は建設業界とは言っても、ビルや道路といったいわゆる箱物の話でした。建設業界でも一戸建て住宅を対象とした住宅業界にはまた別の施策が取られてきました。
高度経済成長期に「夢のマイホーム」「一国一城の主」と謳われ、一般市民もマイホームを購入することが当たり前になってきます、ここまで前回話しました。
 
 
 
庶民のマイホームで消費拡大
住宅ローンを組んで私鉄沿線郊外に土地付き家を買う、というモデルは阪急電鉄の創業者小林一三が生み出しました。
 
「郊外に住宅地を新たに作り、その居住者を鉄道で市内へ運ぶ」という小林一三のアイデアは私鉄経営の基礎となり、大阪・名古屋・東京と大都市には私鉄が路線を宅地開発して販売し、ハウスメーカーや黒柳建設のような中小工務店がたくさん創業し住宅の建設に当たりました。
 
そうなると仕事が増えて雇用が生まれ消費が拡大し、経済が循環します。
 
また土地建物を一般市民が当たり前に所有することになると、そのものに価値が生まれ値段が付き、取引が活発化されます。
 
そこで固定資産税、不動産取得税といった税収が増え、国も住宅取得を積極的に誘導し、今日に至ります。
 
 
 
 

人口減少時代で拡大路線は転換

さてそんな建設バブル、人口ボーナスの恩恵はとっくに終わり、人口減少時代に突入しました。これまでに拡張された広い住宅地は徐々に不要になり、郊外への拡張から中央への集約へと路線転換しつつあります。田園都市からコンパクトシティです。
 
インフラは新設と維持管理がセットで考えられるようになり、国土開発から国土保全へと切り替わりつつあります。住宅も全国で約5000万戸の既存住宅があり、新築着工棟数は年々減少傾向にあります。
 
フロー型社会からストック循環社会へ、スクラップアンドビルドの壊して建てるから良いものを長く使う路線へ、既存の物を活用する方向へとシフトし始めています。
 
住宅業界では既存住宅の流通活性化を1つの目標に掲げ、築20年で評価価値がゼロになる現在の評価基準を改め、実質価値で査定される新しい評価基準を定めています。
 
既存住宅流通とは、「中古住宅売買」の言い換えです。住宅の一次取得層を中心に、モノがしっかりしていれば中古住宅でもオーケーという層が増えてきたため、既存の資産を再流通させて活用する手法です。
 
これは今までのフロー型社会から、ストック循環社会への転換です。
正直言うと、黒柳建設のような新築重視の工務店はちょっと困るのですが、すでに時代は動き始めています。
それに、途中で事業の方向性を変えてはいけないなどと誰かが決めたのでしょうか?そんなことはないですね。
 
 
 
補助金投入のケーススタディ
何度も事例に出てきて恐縮ですが、手本となるモデルはドイツにありました。
 
ドイツは建設関係の消費のうち、実に75%が既存改修で発生しており、新築・新設は25% です。
 
ここには、補助金やローン金利を上手に活用し、1の税金の投下につき13の消費が発生して、7%ほどの消費税が国庫に回収されます。
 
このモデルはかなり信頼性の高い数値が計測されており、日本の国土交通省もノウハウを学んだ、ということを聞いたことがあります。
 
実際、数年間続いた住宅エコポイントの結果は、予算の消化率も書類の正確さもかなりのもので、国土交通省はあれで自信を深めたとも言われています。
 
 
 
 
住宅ローンを価値ある投資へ
夢のマイホームづくりの実務面をずっとして来た私たちが言うことではないかもしれませんが、マイホームの購入は不動産投資的な目線で見ると全くもって理にかなっていないと言えます。
 
不動産投資と言う意味に限ってです。
 
最長35年掛けてさらに金利も払って購入した住宅は、20年で建物の評価価値はゼロになります。これも税制の減価償却期間から、なんとなくそう思われているだけで、実際はそんな事はありません。
 
きちんと手入れをして、雨漏れと腐朽をしっかりと防いだ建物は30年くらい余裕です。実際に築50年の建物の床下に何度も潜りましたが、拍子抜けしたくらい異常がありませんでした。ですが、世の中の相場では築20年で価値はゼロなのです、これはおかしい事だと思います。
 
これまではそのマイナス分を土地価格が高騰することで補ってきましたが、バブル崩壊で土地価格が下がることを経験しましたので、そのロジックは通用しません。
 
そこで国は既存住宅の新しい評価基準を作り、実際の価値に応じた評価額で建物が市場に流通するように促しています。
 
日本は欧米に比べて、住宅に対する投資額が積み上がらず時間とともに消えていってしまう現象が発生しています。リフォームやリノベーションで再投資しても、土地価格しか評価されないのであれば、古家付土地の購入者は建物を壊して新しく建てるからです。
 
 
 
 
人口ボーナス期の終焉
経済が右肩上がりの時勢であれば、時間とともに消えていく額より社会で循環して生まれる額の方が大きかったのですが、人口ボーナスが終了した今では逆転しています。
 
そこで、フロー型社会からストック循環社会への転換が必要となっているのです。
 
国はもう随分前から現状を予見し、様々な取り組みをスタートさせてきました。既存住宅流通の活性化のため、様々な仕組みを作り、いくつもの事業を立ち上げ、ようやく本腰を入れているように感じます。
 
例えば、昨年の11月にスタートした住宅ストック循環支援事業などはその原型を住宅エコポイント制度や既存住宅流通活性化事業などにみることができます。
 
ちなみに、黒柳建設では2010年(平成23年)に初めて実施された既存住宅流通活性化事業に採択され、1件の補助金交付を受けています。
 
 
 
 
 
変わりゆく工務店の役割
そうなると、私たち地域の工務店の役割も単なる新築偏重から、高性能・長寿命な住宅建既存住宅の維持保全、つまり住宅リフォーム・リノベーション工事に移りつつあると考えています。
 
そしてなにより、新築を建てるとしたら高耐久な長持ちする建物で、建物自体が資産となる住宅としなければなりません。
 
認定長期優良住宅認定低炭素住宅認定性能向上住宅などの認定は普通に取り、構造・断熱・省エネにも優れた新築住宅を建築できる工務店、高気密高断熱の外断熱住宅の新築で培った技術と知見を活かした、性能向上リフォームなどができる工務店が今後は必要とされていくと予想しています。
 
これは住宅の構造を熟知し、性能を重視した新築を建ててきた工務店にアドバンテージのある分野です。
 
 
 
そのような目論見もあり、小金井地域のリフォーム・リノベーション・ワンストップサービス「住まいのクロケン」を立ち上げたのです。こちらの事業では宅建業を組み合わせ、土地と建物を一括で扱えるフレームが適していると考えています。
 
幸い宅建業は30年以上の歴史があります。仮にその期間の大半が開店休業状態だったとしても、歴史は減ったりしません、実績も増えていませんけど。
 
さて、次なる手は、そのことをいかにして上手に伝えていくかにかかっています。
中古住宅売買にリフォーム・リノベで参入するも良し、物が良ければ買い取り再販もありです。相続に絡んだ建物と土地の処分も地域では発生しているはずです。
 
現在お住まいの住宅の性能を向上させ、長持ちさせることが住まい手にとってどのようなメリットがあるのか、を正しく伝えていかなければなりません。
 
難しい道のりですが、やり甲斐のある仕事です。
 
実際に、昨年のニュースレターで不動産に関するご相談についてアナウンスしたところ、昨年末からすでに数件のご相談が寄せられています。
やはり、ニーズはそこにあり、私たちがすくい上げられていなかったようです。
 
 
 
 

嬉しいやら悲しいやら

このエントリーは随分と前に考えてまとめていたもので、日記に載せるつもりは無かったのですが、今日5時間かけて拝聴したセミナーの内容がとても刺激的だったので、大変影響を受けて昔の覚え書きを若干アレンジして日記に載せてみました。
と言うか、やりたいと漠然と考えていた事は全部今日のセミナーでわかりやすくまとめられていました。先進的な事例もたくさん見させてもらいました。チクショウ、なんてこった。
 
次回、もう少し続きます。
長文過ぎたので、適度に編集し直して再投稿します。今日はとにかくアウトプットしたかったので。
 
 
(追記)
土木建設分野の公共事業についての部分を切り離し、前説として再編集しました。
 
これに伴い、[前・後編]から[前・中・後編]の3回ものになりました。