外断熱の注文住宅を建てる建築会社2代目の頭の中

住み心地とか、住む人の健康とか、家族の安心安全とか、大きな資産とか、喜び感謝クレームとか、様々に満ちている業界で色々と考えています。地域のため、日本のため、世界のため、御施主様のため、社員さん職方さん業者さん大工さんのため、自分だけにしかできない事がどんどん増えていく毎日は刺激的です。

アパート・賃貸併用住宅は外断熱が良いか?[後編]

それでは、前回の続きです。
アパート・賃貸併用住宅を外断熱で建てる場合の壁をご紹介しています。

[第二の壁] 知識不足な不動産業者の壁

次に立ちはだかるのがアパートを管理したり貸したりする実務担当の不動産業者さんです。

前述の通りお客様である入居者さんにニーズが存在しないので、たいていの業者さんは非常に冷ややかです。

断熱性?住み心地?省エネ基準?断熱性能等級?そんなんじゃ入居者さんは入らないよ。
外断熱で高気密高断熱だから高く貸したい?そんなの無理に決まってんじゃん。
入居者が求めるのは家賃、駅からの距離、広さと設備、これが全てだよ。

とおっしゃる業者さんがほとんどです。
実際、前回のコンパクト1LDKと外断熱の2つの柱で、30年先を見据えてアパート提案を行っている、ととある建設予定地周辺の不動産やさん廻りをしてお話ししたら、

そんなこと言う建築屋さんは、初めてだよ

と大層驚かれました。

ですが近年、国も賃貸住宅の省エネ性省CO2化に目を向け始め、積極的に手を打ち始めてきています。
例えば環境省では省CO2賃貸住宅の新築または改築に対する補助金を出したり、省CO2賃貸住宅を仲介した不動産会社へ助成金を出したり、高性能な賃貸住宅を差別化するラベル貼りを試みたりと、省エネ物件を認知普及させる方向を明確にしてきました。
これらの補助制度は実際にはいろいろめんどくさくてたいした効果も無さそうに聞こえるのですが、国が民間を誘導したがっている方向性が明確に示されています。

 

今はまだ始まったばかりですが、いずれこの制度が当たり前になった時に古いタイプのアパートはステージから脱落してしまう恐れがあります。

耐震性能が耐震基準前と後で語られるように、省エネ性能が省エネ基準前と後で分けられるようになる日が来る事は容易に想定できます。そしてそれは2020年の省エネ基準の義務化です。

日本人はお膳立てが整って太鼓がドンとならされると、パッと同じ方向を向く癖のようなものがあります。クールビズスマートハウス太陽光発電郵政民営化、どれもほんの数年で広く浸透するに至りました。
今はお膳立てを整えている真っ最中です。
おそらくはあと数年、2020年の省エネ基準義務化、東京オリンピックの頃を目処にこの分野も加速していくと想定しています。

 

それまではまだ大丈夫だから今のままの仕様で建てて良しと考えるか、そこから先当たり前になっていくであろうことを先行して取り入れるか、最低でも2 30年の事業となるアパート経営は当然後者であると考える事は至極当たり前です。

 

[第三の壁] 割高な建設費の壁

これが実行に向けてもっともネックとなる部分です。黒柳建設標準で外断熱仕様は坪単価にして約2割、本体工事価格が割増になります。

 

時間の経過とともに高性能化、高機能化、低価格化が進む機械製品と異なり、建設費の過半を占める建材や資材、人件費はコストダウンが非常に難しい項目です。

性能を上げれば上げるほど材料や手間ひまを消費し、価格に反映されます。
大手ハウスメーカーなどでは企業努力でユニット化、合理化を進め、建設費用の圧縮を図っていますが、立てる側の理屈が優先しているのでどうしても無個性な画一的な建物となってしまいます。
そうなるとそれなりの性能で、それなりの見た目の建物が、それなりの金額で立ちますが、入居者を呼び込む力いわゆる物件力もそれなりのものでしかありません。

 

アパート経営は投資でもありますので、できる限り安く立てて短期に回収するか、長期を見据えてがっつり資本を投入するかの2極化になっていると思います。中道路線は非常に舵取りが難しいでしょう。

 

設備のグレードや家賃値引きといった競合ひしめくフィールドでの勝負は最終的には資本力の勝負になります。個人業大家さんが1番避けなければならない泥沼のレッドオーシャンです。
今流行りの間取りで、今人気の設備を入れ、相場の家賃で貸し出す。これがアパートの鉄則だと言われていますが、それが通用するのは新築10年目位までです。その後も入居者を呼び込む物件力を維持できるかどうかは、建物のもっと内面の構造、断熱、劣化対策、維持管理の容易性、に配慮されているかどうかが大きなポイントになります。

 

設備頼みの差別化や新築プレミアムは時間とともに衰退していきます。設備の刷新やフルリノベーションはどうしても必要に迫られた時に考慮するものとして取っておき、それを頼みにするのは危険です。分かりやすくすぐ取り掛かれるからこそ、真似されやすくすぐに陳腐化します。
目先の変化はいつでもできますが建物の内面は新築時にほぼ決定されます。後からリフォームに入るとなると大変な手間と費用がかかります。

 

確かに建設費は割り増しになりますが、長く安定的に賃貸業を営むならば、建物を性能的にも寿命的にも長期にわたって戦える状態に保つことは重要です。

 

壁は乗り越えて参入障壁に

いかがでしょう、外断熱の賃貸住宅を取り巻く壁についてさわりをご紹介しました。
確かに壁はありますが、だからダメだとは考えていません。この壁をうまく乗り越えれば(くぐっても、避けても可!)、むしろ他者が容易に入ってこれない障壁になってくれるのです。
一般の常識と言う空気のように掴みどころのないものは、立ち向かえばスライムのように粘性が増してまとわりつきます。


ある漫画のダークヒーローが言っていた言葉が印象に残っています。

わかってんだよ、社会のルールなんていうクジの中には本物の当たりなんて入ってない。
本当の当たりはそのルールなんてクソみたいなモンを作った奴らが最初から全部握ってんだ。
俺らは知らない間にそれに踊らされているだけなんだ。

 


ルールや常識を作る側に回れないまでも、ルールや常識に捕らわれず、ルールや常識をうまく使える側に回りたいものです。

次回は日記を書き始めての雑感と、続けていくためのいくつかのコツをまとめます。